前編、後編に分けてスピードマスター の歴史やタイプ・バリエーションに関して少しですが書きました。
今回もスピードマスター に関してです。
スピードマスター プロフェッショナル
2016年頃のマイナーチェンジにより少し変更がありました。
1つはステンレスベルトのピンの変更。ピンで留まっていたピンがネジ留め式に変更になりました。堅牢性が上がり見た目も良くなりました。
時計自体には大きな変更はありませんでしたが、付属品のボックスがとてつもなく大きくなりました。
こんな箱はかさばるので要らないとの意見も多分にあると思いますが私は物好きなので付属したモデルの方がありがたいですwww。ペーパーウェイト、傷見用ルーペ、ナイロンベルト(NATOバンド)、長いベルクロストラップ(宇宙服の上から巻く)、ベルト交換用のバネ棒、冊子などが付属します。
大きな変更は無い(無くていい)のが強みですが、人に併せて色々なニーズがあるのも確かです。
時計の風防(ガラス)は強度の高いサファイアクリスタルや安価な時計でもガラスが使われることが常です。しかし、スピードマスター プロフェッショナルは「ヘサライト風防」(プラスチック製)を採用しています。
ムーンウォッチを購入する決心をしたとしても、ひとつ大きな選択をしなければいけません。風防をヘサライトにするかサファイアクリスタルにするかという選択です。
ヘサライト風防とサフェイアクリスタル風防
(左:サファイアクリスタル 右:ヘサライト)
宇宙で使用する際に気圧の変化などの外的要因によって風防が割れる危険性がありました。ガラスが割れて飛散してしまうと無重力空間では細かなガラス片によって失明などのリスクや船内の計器に悪影響(最悪故障)が考えられます。そういったことから、スピードマスター プロフェッショナルの風防はヘサライト風防(プラスチック風防)が採用されています。
ただ私たちは宇宙に行きません。もちろん地上の上で生活します。
私たちが使用することで考えられるのが時計の破損です。
ベルトやベゼルはもちろん傷が付きます。もちろん風防にも傷が入るでしょう。プラスチックなら尚更です。
ヘサライト風防は歯磨き粉などの研磨剤で磨けば浅い傷は目立たなくなりますが、深い傷だとそういうわけにはいきません。オーバーホール時に交換することも可能ですが傷が入らないに越したことはありません。
そういったニーズを満たす為かスピードマスター プロフェッショナルにもサファイヤクリスタル製風防のモデルがラインナップされています。
個人的にはサファイアクリスタルの方が好ましいです。
レプリカにこだわる方はヘサライト(プラスチック製)一択になるでしょう。
ヘサライトとは素材的な意味ではプレキシガラス(アクリル)を意味します。しかしオメガではヘサライトという呼称を用いています。
ヘサライトについて
プラスチックと言ったり、アクリルと言ったり少しややこしいので整理すると
ヘサライトはプラスチックの一種で、強度があり光学的に優れた性質を持つ、剛性の高いプラスチックで、眼鏡のレンズや産業機械、ショーケース、自動車のヘッドライトユニットなどに使用するのに適している。
もちろん、腕時計の風防もそうした用途のひとつで、耐候性もかなりあるが、適切な研磨材を使って磨き上げられる程度の柔らかさも備えている。磨けば最高の光透過性を発揮する。
ヘサライトの物理的性質は、衝撃を受けると、割れて飛散するのではなく亀裂が入る。もし腕時計の風防が宇宙で砕け散ったとしたら、鋭利で危険な微粒子が無数に発生して宇宙船内を浮遊することになり、搭載機器類を傷つけ誤作動を引き起こすリスクがある。ところがヘサライトならば、亀裂が入るだけで飛散することはない。
一方、サファイアクリスタルの風防は、わざわざ紹介する必要のないほど普及しています。物理的性質が優秀で強度があり、透明で、これが最も重要ですが、ヘサライト製の風防と比較して極めて傷が付きにくい。
しかしひとたび傷が付いた場合、ヘサライト風防とは異なり磨き上げて傷を消すことが難しくなります。風防全体の交換が必要になることも多い。
ヘサライト風防の付いたオーナーの中には、傷を消すために風防を磨き上げる作業を儀式のように思い、魅力を感じる人もいます。(歯磨き粉など手軽に手に入る研磨剤で簡単に磨くことができます。)
ヘサライトとサファイアクリスタル見た目の違い
見た目にも違いがあります。
横から見たときの風防の膨れ具合が異なります。(手前がヘサライト風防、奥がサファイアクリスタル)
ヘサライト風防にはサファイアクリスタルにはない、固有の光沢があります。柔らかく、優しい雰囲気に光る。特定の角度から眺めると、ヘサライトの曲面によって文字盤の周縁にある秒目盛りがひずんで見えるのですが、こうした味はアンティークなどによく見られます。
しかし、サファイアクリスタルのモデルにも特有のビジュアル的な魅力が存在します。サファイアクリスタルの風防はドーム型をしていない。ケースと接する部分はほとんど直角に落ち込んでいる。風防の厚みによって、文字盤の周囲に乳白色の光のリングが浮かび上がる。文字盤の漆黒との対比が鮮明で、日食を思わせる視覚的効果が生み出される。文字盤を真上から見下ろしたときに見える乳白色のリングにちなみ、「ハロー(後光)」効果と呼ばれている。コレを好ましく思うコレクターもいるし、スピードマスターの文字盤らしい整然と無駄を排した雰囲気を損なうと考えるコレクターもいる。
ヘサライト風防のようにサファイアクリスタルをドーム状に盛り上がらせるにはかなりの技術とそれに併せてコストがかなりかかります。そのことからクリスタルでオリジナルのドーム型を再現するのはかなり難しいです(金額が上がるならできるでしょうが)
日常使いでできる傷が勲章として愛着が湧く人もいれば、傷がつくことで気持ちが離れたり残念がったりする人もいます。
数年しか使わない物なら傷だらけになっても気にならないかもしれませんが、永年使う物にはなるべく傷が残らない方が好ましいと考えるのは仕方のないことだと思います。(もちろん人それぞれです)
2003年、オメガはスピードマスターのコレクターやファンの要望を受け入れる形で、サファイアクリスタルの風防を採用したモデルを発売しました。それまではサファイアクリスタルのシースルーバックを採用したモデルが存在していただけでした。しかしついに表側の風防にもボックス型サファイアクリスタルを使ったモデルが登場しました。
最近のモデルでは「オメガ スピードマスター キャリバー321 ‘エド・ホワイト’イン ステンレススティール」も風防と裏蓋の両方にサファイアクリスタルを採用している。
サイズが39.7㎜の小ぶりなサイズ(プロフェッショナルは42㎜)とベゼルがセラミック(プロはアルミ)。インデックスも立体的なΩマークとリューズガードが無いなど差異が多く見られます。1番の特徴はCal.321を復刻させたことです。ただ、プロフェッショナルが3本ほど買える値段です(笑)
PROFESSIONAL まとめ
私自身、『プロフェッショナル』の文字は『手巻きモデル』を指すと思っていました。実際は、NASAの過酷な審査に合格し正式採用された時に得た称号です。
「プロフェッショナル(PROFESSIONAL)」の文字は今でも裏の文字盤に刻まれています。そこには「すべての有人宇宙計画で使用可能であるとNASAが認定(FLIGHT-QUALIFIED BY NASA FOR ALL MANNED SPACE MISSIONS)」と刻印されています。
この文言はサファイアクリスタルモデルには書かれていません。
理由はもちろん、NASAの認定を受けていないからです。地球を飛び出したスピードマスター はすべて「ヘサライト風防モデル」です。2種類の風防のうちどちらを選ぶべきか。決めるのは非常に難しい。難しいという点では月に行く難しさも並大抵ではありません。
どちらの風防を選んでも、日常的に使用するうえでは何の問題もありません。繰り返しになりますが、ヘサライトはNASAの基準を満たすのだから、日常程度であればいかなる場面にも対応できる。もしNASAがサファイアクリスタルのスピードマスターをヘサライトと同様の方法で審査したとしたら、やはり有人宇宙飛行計画の基準を満たすと認定されるはずです。しかしその栄に浴したとしても、認定第1号には決してなることはない。その地位はあくまでもヘサライト風防のスピードマスターのものです。
見た目の微妙な相違点を除けば、両モデルの違いは大部分が考え方の違いから来る。
月に行った腕時計にできるだけ近いモデルを選ぶか。
現代の工業製品にふさわしい材質のモデルを選ぶか。そちらを選べば、クロノグラフのムーブメントという究極の精密機械が作動するさまを眺めることもできる。2つの考え方の間で迷うと、勢いで1つを選ぶ場合に比べてかなりの心労を味わうことになる。しかしこれには良い面もある。つまり、どちらを選んでも失敗はあり得ないのだから。