○国産で気になる存在、ミナセ
セイコーと同じく国産ということで紹介したかったブランドです。
秋田の工具メーカーが立ち上げたブランドで研磨の技術力がとにかく凄い。時計好きなら認知しているぐらいで一般の認知度はあまり高くない。と思います。
そんなメーカーの方が応援したくもなり隠れ家的なお店のように「良いものを1人で独占したい欲」は人の中でひっそりとあるのではないでしょうか??
被るのが嫌だったり、真似されるのが嫌だったり、全く気にしなかったり。人それぞれ、時計の好みもそれぞれ。
ミナセの歴史
ミナセは精密機器メーカーとして有名な「協和精工」が、2005年に秋田県の「皆瀬(湯沢市)」に工場を設立し、新しい腕時計ブランドとして製造・販売を行いました。
「協和精工」は、リュウズに穴を空ける段付きドリルの製作をきっかけに時計業界に参入し、下請けで培った技術から時計のケースを生産するようになりました。バブルが弾けて売れない時代がありとても苦労されたようですがその後、OEMの時計(製造を発注した相手先のブランドで販売される時計を製作すること)造りから文字盤やベルトまで製作したことから、部品の生産から全ての組み立て・製造をするようになった歴史があります。
「複数回の工程が必要なリュウズの穴を一度で開けられるドリルが欲しい」との依頼で製作したドリルの形がブランドロゴになっています。
「100年後も語れる物づくり」を信念としている。
シリーズ・特徴
MINSEの時計は主に「HiZ」というシリーズで構成されています。それは「秀ず」という他より優れている、秀でている、という意味を持つ言葉から名付けられました。このシリーズには他時計メーカーからは「やりすぎ」ともいわれる特徴があります。
ミナセの特徴とこだわり
永続的なメンテンナンスがしやすい「MORE構造」
熟練の職人の技から生まれる静かな鏡面の輝き「ザラツ研磨」
美しさの為に他の何倍もの手間と時間をかける「ケースインケース構造」
○MORE構造
寄せ木細工をヒントにした独自の構造です
Minase Original Rebuilding Equation の頭文字を並べた造語で「独自の再生方式」という意味が込められています。
これはミナセの特徴になります。全てものパーツがバラバラに分解できます。もちろんどのメーカーの時計も細部まで分解できると思いますが意図的に分解できる時計は少ないと思います。
また、パーツを繋ぐパイプとブレスレットが互いに擦れて金属粉が出ないようにブレスレット の穴に5/100mmの遊びを持たせています。その分、左右のコマの間隔を詰め、耐久性を上げています。
一般的に見られるベルト側面のピンが見えないことも耐久性の向上に繋がっています。(ピンが抜けてベルトが外れるトラブルは多い)
分解できる利点は、隅々まで清掃・メンテナンスできることや個人の好みに合わせてパーツを組み合わすカスタムができることです。何より傷のついた部品を簡単に交換することができるので永年使用できる安心感もあります。
○ザラツ研磨
「ザラツ研磨」はケースの仕上げの前の下地処理のことで、ゆがみのない美しい面を作るために必要不可欠な加工技術です。この「ザラツ研磨」を行うことによりクリアで美しい鏡のような仕上がりになり、以前はスイスのメーカーも採用していましたが、現在は日本製の腕時計以外では見られない研磨法です。(工程が多く時間がかかる)
下地を平面に綺麗にする〝地ならし〟のイメージです。
スイスのメーカーがザラツ研磨をしなくなった理由は調べても出てきませんでした。職人の腕が出来を左右する技術と大量に生産できないことが理由かもしれません。国産のメーカーは採用例が多く今ではアイデンティティも感じます。
ザラツ研磨によってエッジの立った美しい鏡面を作り出すことができます。
一般的に研磨や磨きは時計のケース。ブレスレット 。内部が見える場合はムーブメントに施されますがミナセは文字盤やインデックスにまでザラツ研磨を加えています。
特にインデックスへの研磨は非常に困難。職人の技が光ます。熟練の技・技術があるからこそ普通では施さない小さな箇所にも研磨することが可能に。
ミナセはザラツ研磨が得意で、ブランドを支える武器になっています。
○ケースインケース構造
時計ケースの中にもう一つ時計ケースがあるような、時計が中で浮いているような独特な見た目が特徴です。
担当デザイナーがパーツの1つ1つまで設計を任されたことにより細部までこだわり抜いたデザインを形にすることができました。
他のメーカーには無い独特の奥行きと立体感があります。
○針にも工夫とこだわり
ミナセの特徴のひとつが、文字盤を這うように取り付けられた針にあります。文字盤がフラットなら〝まっすぐな針〟を使用すれば良いですがミナセの文字盤は立体的に造形されています。
それぞれ文字盤と針の間隔は0.3mm、針同士の間隔も0.3mm、ガラスと針の間隔は0.5mmに計算されています。
わずかに狂っただけでも、見栄えが変わってしまうだけでなく、最悪の場合は時計の止まりの原因になります。設計図通りの間隔を与えるため、職人たちはひとつひとつの針の曲がりを調整し、丁寧に取り付けていきます。
ムーブメント
ミナセの使用しているムーブメントはETA2824のカスタム。
もちろんポン乗せではなくミナセの職人により、全面にペルラージュ仕上げが施されています。
真珠模様ことペルラージュ仕上げは一般的にコストを考えて仕上げを最小限に抑えられますがミナセでは、見た目の美しさの追求とケースの磨きとのコントラストを活かすべく、可能な限りペルラージュを加えています。
ペルラージュは表面を削って仕上げを与えるため、部品にもともと施されていた銀メッキがはがれてします。加工後ペルラージュを施した部品を再メッキしています。再仕上げを施したことが分からないほどの、丁寧な仕上がりです。
モデル・ラインナップ
HORIZON
ケースインケース構造や立体的なデザインの為にやや大きくなってしまいがちなミナセの時計の中では薄く装着感を高めたモデルになります。ガラスを含め厚みは11.5mmで太すぎず手ごろなサイズ感ではないでしょうか。
無垢のサファイアガラスを裏表から切削、研磨した大きく弧を描くドーム型風防と横から覗いた際の張り詰めた水面のようなデザインは唯一無二の存在感です
〜 SPEC 〜
日常生活防水 5気圧
デュアル球面サファイアガラス(無反射コーティング)
裏蓋スケルトン(サファイアガラス)
ステンレスブレスレット(MORE構造)
ケースサイズ:横38×縦51×総厚11.5mm(ガラス含む
総重量:150g
FIVE WINDOW
ミナセを代表するモデルだと思います。表裏がガラスのタイプは多々ありますが側面にもガラスを配したデザインは数少ないアイデンティティーだと思います。(正面からは覗けない)
ケースインケース構造で立体的になったフェイスを横からも観賞することができます。すべての窓がサファイアガラスなので強度も十分です。
ただ厚みが14mmもあるので細い方は大きく感じたり、スーツの袖に収まらない可能性もあります。
〜 SPEC 〜
日常生活防水 5気圧
デュアル球面サファイアガラス(無反射コーティング)
サイド&裏蓋スケルトン(サファイアガラス)
ステンレスブレスレット(MORE構造)
ケースサイズ:横38×縦46.5×総厚14mm(ガラス含む)
総重量:160g
DIVIDO
上記2種類がスクエア型(四角)なのですがこちらは丸型です。王道なのにミナセでは少数派です。
FIVE WINDOW(14㎜)が分厚く思われる方は多いと思いますがこちらの厚みは12㎜。扱いやすいサイズだと思います。
フェイスの作りも立体的で作り込まれています。
〜 SPEC 〜
日常生活防水 5気圧
サファイアガラス(無反射コーティング)
裏蓋スケルトン(サファイアガラス)
ラバーEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム製)/ Dバックル仕様
ケースサイズ:横40.5×縦40.5×総厚12mm(ガラス含む)
総重量:96g
ミナセの自社ムーブメントと他社ムーブメント事情
時計好きの中にはETAムーブメントを乗せただけの時計を〝ETAポン〟と茶化した言い方をすることがあります。
これには理由があり、大量にETAムーブを仕入れると単価は相当安いものになります。そのムーブメントを乗せ数十万円の価格で販売しているメーカーがあり、ケース(外側)やデザインが優れていたとしてもブランドネームで『ボッタクリ』しています。
そのことを卑下して〝ETAポン〟という言葉が生まれました。
ですが決してETAムーブメントが劣っているわけではありません。今は自社ムーブメント開発と搭載をどのブランドも推し進めていることに加え、自社ムーブ搭載機は価格が高額なのでETAムーブが劣った印象が発生しています。
もちろん各社が威信をかけて開発したムーブメントはETAの性能を上回るでしょう。しかし決してETAの性能が日常使いで問題があるわけではありません。
自動車で例えると、自社ムーブメントが中型車や高級ライン。
ETAムーブメントは大衆車や手頃なライン。
高級車の価格ラインナップばかりでは誰でも車が買えなくなってしまいます。
ですから手に届きやすい価格の商品が必要です。
とりわけミナセはメッキを落として再加工や組み立てを行うことでムーブメントの価値を高めています。
中にはETAの刻印を消してわからなくするメーカーもある中でミナセの対応はとても良心的ではないでしょうか??
そんなミナセも少数生産ではありますが自社ムーブメントを乗せた時計を販売しました。まだまだ量産や一般販売するにはハードルがあると思われますが将来、オールミナセ産の時計がラインナップに加わる日が来るかもしれません。
そうなると目の肥えた時計好きの反応も変わってくるかもしれません。
ちなみに、「ETA2824」で検索すると有名な時計がいっぱい出てきます。信用できるムーブメントであることは間違いないです。
まとめ
国産の間違いない仕事で、ケースや全体の仕上げもとても綺麗な時計です。大きく・厚い時計が苦手な方には難しい選択になりますが、20~30代男性の機械式時計入門機。もしくは入門機の次に50万円までの予算で購入する時計候補として選択肢に入ってくるのではないでしょうか?
もちろん働き盛りの40代男性、少し落ち着いてくる50代男性でも問題なく使用できると思います。
何より、「100年後も語れる物づくり」という信念の元に作り出されている時計はメンテナンスを怠らないことで次世代にも継いでいくことが可能です。
もちろん歴史が浅いので老舗メーカーの歴史に浪漫を感じて時計選びをしている方々には見向きもされないブランドかもしれません。がこれから実績を刻んでいくのはしっかりとしたヴィジョンと技術があるメーカーではないでしょうか?
そんなミナセの紹介でした。